【事業会社による挑戦】 富士フイルム(株) 一色 昭典①

一色昭典

富士フイルム(株)

e 戦略推進室 マネージャー

2016.05.30


【事業会社による挑戦】 富士フイルム(株) 一色 昭典①

 

世界的なデジタルシフトの潮流に直面する現在は、かつて存在した業種や慣習化したビジネスモデルでも安住が許されない厳しい時代にあります。しかしながら、その波に自ら挑み、新たなる地平を目指すイノベーターたちにとってはエキサイティングなタイミングであるのも事実。

 

そんな変革のリーダーたちに焦点を当て、事業会社自らが果敢に挑戦し変化を牽引していく姿を追います。

 

第 1 回目となる今回は、富士フイルム(株)の e 戦略推進室マーケティンググループを率いる一色 昭典氏に、同社の取り組みについてインタビューを行いました。

 

富士フイルム株式会社 一色昭典氏

  富士フイルム(株) 一色昭典氏

 

1934 年の創立以来、写真フイルム、カメラなどのイメージング事業で強固な市場を築き、一世を風靡する製品を多く世に送り出してきた富士フイルム株式会社。多数の記憶に残るヒット CM で知られるなど、マス・マーケティング戦略においても確かな足跡を残してきました。フイルム自体の市場が縮小傾向にある現在も、高度な研究技術開発力を生かし、イメージング、ヘルスケア、高機能材料、グラフィックシステム、光学デバイスなどの分野で多くの事業部、子会社を有し、多くの事業を展開しています。

 

同社全体のデジタルマーケティングを管轄、推進するのが、 e 戦略推進室です。富士フイルムグループ全社のデジタルマーケティング施策を管掌する部門として、数々の先進的な試みを導入しています。この e 戦略推進室を率い、グループ全体のデジタルマーケティング戦略を担うのが、マネージャーの一色昭典氏です。この一色氏に、 “事業会社が推進するデジタルマーケティングの現在” について、お話いただきました。

 

 

e 戦略推進室が富士フイルムグループの製品開発を変える? そのデジタルマーケティング戦略とは

 

e 戦略推進室では、国内・国外における富士フイルムグループ全社の各事業部、各関連会社のデジタルマーケティングの推進支援を行っています。 Web によるマーケティングや、ソーシャルメディアの運営、 Web ブランディング、 EC 事業などを手掛けていて、特に現在は、国内の EC 事業で培った知見をヨーロッパや中国に拡大していくことに注力しています。

 

この e 戦略推進室、もともとはインターネット室という部署でホームページの作成などを行っていました。公式ホームページから EC サイトの作成などを経て、 EC サイトを訪れる顧客データを直に得られるようになったのです。そこから “デジタルを利用して顧客を理解する” というスタンスに変わってきました。

 

まず我々が力を入れたのは、写真商品・化粧品などの B to C 事業です。当社は事業機会として、もともとお客様の声を直接得るケースが少なかったのですが、 B to C 事業の特性上、ユーザーとの直接的タッチポイントを持つことができ、ユーザーインサイトを理解しながらサービス開発を行うことが可能になりました。

 

もともと当社は、 『いいものを作る技術力があれば、その製品は売れる』 というプロダクトアウトの発想が強い会社でした。顧客のインサイトを理解して市場を作っていくという発想があまりなかったのですが、 EC 事業を行うようになり、そのデータに顧客インサイトが隠れていることに気付き始めたのです。そこで、ユーザーの隠れた声をきちんと分析するために、 Rtoaster を導入し、プライベート DMP を構築しました。

 

弊社は以前からマス・マーケティングを積極的に行っていましたが、現在もテレビ CM や 「お正月を写そう」 などの大規模なキャンペーンなどは宣伝部が担当しています。 Web 、デジタル中心の広告戦略においては、我々がリードしていくというような、協業体制になっています。 「お正月を写そう、フジカラーで残そう」 というテレビ CM を見て当社サイトを初めて訪れたユーザーを、そのままフォトブックの注文につなげることができるように、マスとデジタルの連携について、模索しています。

 

現在、当社の事業収益の 75% は B to B 事業からきています。しかし、我々はまず EC サイトの経験を生かせる B to C の領域から、デジタルマーケティング施策をスタートさせました。今後は、 B to B 事業に力を入れていく予定です。 B to C で得た知見、ノウハウを B to B にどのように生かしていくかが課題になっています。

 

 

ワールドワイドで一貫した共通のおもてなし、 「ワン・富士フイルム構想」 を実現可能とするまで

 

当社は、 B to B 、 B to C の領域で、国内外で多くの事業を展開しています。しかし、その事業はすべて統一されたブランディングのもとに展開される必要があります。世界のどこに行っても、富士フイルムのサービスや製品のお客様は、同じユーザー・エクスペリエンスを体験できるよう、同じ “おもてなし” を提供していかなければならないのです。

 

e 戦略推進室では海外のデジタル展開におけるブランディングも担当しています。以前は、オフィシャルサイトや EC サイトも国ごとに違うデザイン、違うレギュレーションで運営されていました。しかし、それでは 「富士フイルム」 と聞いて思い浮かべるイメージが、国ごとに違ったものになってしまう。お客様のユーザー・エクスペリエンスも違ってきてしまいます。

 

そこで我々は、ドイツ、スウェーデン、フランス、スペインなど、各国の EC サイトのデザインを 1 年かけて統合しました。実際の運用そのものは現地法人で行っているのですが、それぞれの法人では EC サイト運用の知見がないので、 e 戦略推進室のスタッフが定期的に出張してコンサルティングを行ってきました。各国でサイトのデザイン、レギュレーションを統一したことにより、どの国でも “フジフイルムの共通のおもてなし” を実現できるようになりました。

 

つまり、我々はデジタルという領域の中で “ワン・富士フイルム構想” を体現していこうとしているのです。 B to B 、 B to C 、国内、海外など、各事業においても共通の “ワン・富士フイルム” として、お客様をおもてなしして、エンゲージメントを高め、ブランディングを高めていくということです。

 

 

常にアンテナを高く。新しいソリューションの有効性を見極め、全社に還元

 

具体的なデジタルマーケティング施策において、我々はさまざまなソリューションやデジタルツールを積極的に導入しています。まず、我々が管轄する EC サイトなどで、そのツールの使い勝手や有効性などをいろいろ試しているのです。一例をあげると、「フォトブック」 というサービスのページにヒートマップツールを、 「写真年賀状」 サービスに A/B テストツールを導入し、我々自身が運用し、成果を挙げています。

 

我々は本社スタッフ部門のため、全事業部を横軸で見ることができます。しかし、各事業部にはそれぞれの事業計画があり、予算や目標があります。ツールを導入するにも ROI を考えねばならず、そのトライアルによりいくら売り上げが上がるのかという説明責任が問われるのです。

 

そこで、我々が研究・開発的にいろいろな新しいツールをトライアルで導入しています。そしてその有益性を確認できたツールを、各事業部や各事業会社にフィードバックし、導入支援を行うのです。現在は、当社の主だったプロモーションサイトにヒートマップツールを導入しています。

 

この分野は、とにかく新しい技術の導入や参入もめまぐるしいので、常にアンテナを縦横にめぐらし、情報感度を高めて、自分でどんどん情報を取りに行っています。 「事業会社自らがそこまでやるのか」 と、驚かれることがよくありますよ (笑) 。私のポリシーとして、食わず嫌いはせず、ピン!ときたものはなんでも試してみるようにしています。そうしないと代理店さんや他社が薦めるモノだけしか知ることができない状況になり、真に必要としている情報に出合えないからです。事業会社というのは、課題に対して真に必要な対策も熟知しているわけです。そこにおいて実際に自分で手を下すか、あるいは他社に投げるのかがこれまで下請けを担う企業にとって成立してきたビジネスモデルと言えます。そしてそこの部分を自社で事業会社がやってしまうのか?そこが事業の成長に関わるスピード感であり、従来型のビジネスモデルをも変革される時節にあると思っています。

 

 

【事業会社による挑戦】 富士フイルム(株) 一色 昭典①

【事業会社による挑戦】 富士フイルム(株) 一色 昭典②

【事業会社による挑戦】 富士フイルム(株) 一色 昭典③

 

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