きみはTUGBOATを知っているか。

「デジキャリ」をご覧くださっている方々には少し馴染みが薄いかもしれないのですが、クリエイティブエージェンシーのTUGBOATについてご紹介してみたいと思います。TUGBOATの在り方とバックストーリーをひも解くと、現在の働き方におけるリアリティや広告・クリエイティブとデジタルクリエイティブの違いが見えてくるかもしれません。

電通の花形部署が丸々独立!電通資本を一切入れず創設したクリエイティブエージェンシーが成し得たこと

4媒体、4マス広告と呼ばれた時代、現在のTUGBOATを率いる電通の “岡部” 、部長であった岡 康道さんらの活躍は業界で知らぬ者はいないほどでした。そして驚くべきことにその神通力は現在においてなお、変わらぬことであるわけですが、ちなみにこの「4媒体」 に当然当時、ネットは含まれていませんでした。そこに代わるのはラジオだった時代のこと。現在岡さんも60歳、還暦になられたそうで、業界に衝撃をもたらしたTUGBOAT設立から実に18年が経ったということになります。岡さんは42歳で電通を辞め、当時自身の部下であり、そのころから気鋭のクリエイターだった多田琢さんを含む4名でクリエイティブエージェンシーを設立しています。

今でこそ電通や博報堂からクリエイターが会社を設立することは珍しくなくなりましたが、TUGBOATが異例なのは電通の資本を入れず、完全に独立型で起業したことでした。岡さんは、それによって博報堂や他の代理店の優秀なクリエイターたちと仕事ができることを狙っていたのです。以来、毎年毎年数々の広告賞を受賞し第一線でい続けているわけですが、これもまた偉業です。岡さん以前は、第一線のクリエイターと言えば40代がギリギリ限界で、多くはどんどん若手にその活躍の場を譲るのが常識でした。メガエージェンシーであれば、実績を挙げて40代も半ばになればマネジメント職に移行することは必定、当然岡さんの時代でもそうだったのです。

そうして始まったTUGBOATを、当時を振り返って岡さんは「5年もてばいいと思っていた」といくつかの取材で答えています。電通の花形クリエイターを引き抜き、かつ岡さん自身も最大級のクリエイターで、電通資本を入れずに独立したその行為そのものが、岡さんにとって大きな挑戦だったはず。5年もてば…と言っていた会社が今や18年の実績となり、「加齢しつつ現役であり続けるクリエイティブ職」をフリーランスでもなく、メジャーでど真ん中でやり続けていることは今後の広告業界の流れを確実に変えるはず。あるいは後継企業が生まれなければ歴史になるはず。このことが冒頭に書いた “働き方”  の点ですが、もう一つ、彼らの主戦場である「広告・クリエイティブ」と、やはり歴然とした文化の違いがった「デジタル広告とそのクリエイティブ」について。

同じ会社で「最高」と「最低」が生まれる理由。何か重要な示唆がある気がしてならない事実

まずこの「広告」を見てみてください。

https://youtu.be/6W0iGCto16I

この作品はプランナーの多田さんが手がけましたが、制作にまつわる詳細やクライアントとの関係性についてはこの記事に詳しく書かれていますので気になる方はぜひ。

もう一つ事例をご紹介します。開高健や山口瞳などを輩出したことでも明らかな、日本の広告宣伝史においてまず間違いなく最高峰と言えるサントリーの宣伝部、先の動画、ペプシネックスの発売元もサントリーなのですが、多田氏の卓抜したプランニングを受け入れる度量と、そこにパートナーとしてがっぷり四つで最高の広告を創れる宣伝部の存在がありました。しかしながら、ある発泡酒の広告を巡って象徴的なある問題が起きたのです。

TVCMはいわゆる非常にベタな表現でありつつも、その狙ったベタさが商品のターゲットなどを考慮した結果であるのは明らか。しかし問題は、ネットの動画広告における表現で、2017年という時代性(社会的特性や状況)をまったく無視した嫌悪感をもたらす内容で大炎上。同社はすぐに謝罪と共に放送を禁止としたのです。

日本最高峰の宣伝部を擁するサントリーで、なぜこの二極化が起きたのか?

それに対して推測できることは、現在の広告制作体制にあると考えられます。ネット広告はTV広告と異なるラインを辿ることが多く、そうなると宣伝部というより事業部が意思決定を下していく傾向が出てきます。そのため、広告表現に宣伝部が込める企業倫理やカラー、哲学などといったものを理解できていない事業部担当者がGOを出していれば、「今の時代にふさわしくない表現かどうか」という観点からジャッジをすることは難しいかもしれません。

 

「60歳で現役最高峰のクリエイター」、「TV広告とネット広告、企業の担当者」といったエピソードからさまざまな感想が胸を去来するのですが、ここは一つ読者の方に委ねることにして締めくくりたいと思います。